『サピエンス全史 上・下』ユヴァル・ノア・ハラリ著

ホモ・サピエンスがどのように世界に広まり、繁栄していったのかを

イスラエル人の歴史学者が記した本。

五万年前、サピエンスはネアンデルタール人とデニソワ人とグレーゾーンにあり、

稀に交配していることもあったそう。しかし、両者はサピエンスによって絶滅に

追いやられていたようである。サピエンスがこの中で繁栄したのには、

言語の発達とそれによる「噂話」の共有により、協力関係を築くことができたから。

ところが、噂話による自然な集団の形成は150人まで。

どのようにそれ以上の巨大な帝国を築いたのかというと、それは「虚構」による。

神話を含めて実際に目に見えないものを信じる力が帝国につながったのだ。

サピエンスが発明した想像上の多様性とそこから生じた行動パターンの多様性は

「文化」となった。そしてその文化が変化していくことを「歴史」と呼ぶ。

進化心理学では現在の社会的特徴や心理的特徴の多くは、農耕以前の長い時代に形成された

と言われている。つまり、現代人も狩猟採集生活に適応しているのだ。

平均的なサピエンスの脳の大きさは、狩猟採集時代以降、実は縮小した。狩猟採集民より

劣った「愚か者のニッチ」が農業や工業に必要な技能に頼れるようになり、遺伝子を

次の世代に伝えることができた。

やがて農業が盛んになるのだが、実は私たちが小麦を栽培化したのではなく、小麦が

栽培しやすいところにサピエンスが住み着いたということで私たちを家畜化したとも言える。

虚構の話に戻るが、人間の平等も自由も正義も「想像上」の普遍的原理であるのだ。

そして同様に宗教も虚構の中に生まれるのだった。

当初あった多神教は、キリスト教のような一神教だけでなく、善悪の対立を認める

ゾロアスター教のような二元論の宗教を生んだ。

二元論では悪の説明が簡単につく。世界には善と悪があるから。

しかしそうなると世界の秩序はどのようにして保たれているのかという問題が出てくる。

つまり、善と悪の戦いを支配する諸法則は誰が執行しているのかという問題である。

交易と帝国と普遍的な宗教のおかげでサピエンスの繁栄はグローバルな世界に到達した。

科学の登場、さらにはそれがテクノロジーと結びつくことによってサピエンスの繁栄は

加速化する。近代科学と近代資本主義の結びつきはさらに加速化させる。

これは帝国主義の制服ともつながってくる。有名な話で、ニール・アームストロングらが

月面での作業の訓練のためにアメリカの砂漠で訓練していると現地の

ネイティブ・アメリカンの老人に何をしているのかと声をかけられ、月に向かうことを

伝えると、老人は月に住む精霊に伝えてくれと、現地の言葉を宇宙飛行士たちに

覚えさせた。宇宙飛行士たちは後で、通訳にその言葉を伝えると

「この者たちのいうことを信じてはいけません。あなた方の土地を盗むために

やってきたのだから」だったそう。

いずれにしろ科学は帝国主義と結ぶついて発展する。イスラム教がインドを征服した時は

現地の歴史や文化などを調べることはしなかったが、イギリスがインドを征服した時は、

歴史や土壌、土地計測などを行なった。学問は帝国主義の確立には必須であったのだ。

一方で、貨幣、そしてそれに伴う「信用(クレジット)」による経済活動の発展は

人類の発展に大きく寄与する。昔の人も信用は考えていたが、当時は世界のパイは

変わらないので、誰かが儲かると他の誰かが貧しくなると考えられていた。

そこに科学革命が起こり、進歩という考え方が登場した。それによって富の総量は

増やすことができると考えるようになったのだ。それにより、信用を担保にした

金融資産の増資と経済活動の発展が加速化した。

さらにアダム・スミスは『国富論』(1776年)で富と道徳は矛盾しないということを説いた。

こうして利益と生産のサイクルが国家をより富ませる結果となるのだった。

最後に幸福について。幸福とは主観的感情に基づくという自由主義の考えがある。

一方、仏教によると幸福は自分の感情とは無関係であり、

むしろそれの追求を止めることである。すなわち、真の自分は何者であるか、

を理解することである。

幸福を研究する学問はまだ数少なく、まだ結論を出すには早いということ。