『銀河鉄道の父』門井慶喜著

宮沢賢治の父親・政次郎の視点で宮沢家の日々を描いた小説。

2018年に直木賞を受賞している。

政次郎は息子を溺愛している。「父親すぎる」父親であった。

自分が病気になるのも厭わずに息子の看護をしたり、

息子の東京に行きたいと言うわがままも聞き入れ、金の無心もすぐにする。

兎に角、甘い父親なのである。

著者自身がもしかしたらこれに近い感情を父親として抱いているからなのかもしれない。

この父親を通して、宮沢賢治という童話作家・詩人の姿が浮き彫りにされている。

宮沢賢治はわがままで、妹思い、頭は良いが、宗教に入れ込んだり、

人造宝石を作ろうと目論んだりと妙なものに凝る癖がある。

文章を書く才能は妹に劣るが、子供向けのストーリーを考える才能は飛び抜けている。

それで学校の先生になったのだが、病気がちだったのもあり、

退職し、自給自足の生活をしながら童話や詩を書くのだが、

結核になり、若くして亡くなってしまう。

父親は、当時の世相的には家長制度により、父親の威厳を保ちたいところではあるのだが、

どうしてもこの息子をサポートしてあげたい気持ちが強く、つい甘やかしてしまう。

その愛情は最終的には息子の才能を大いに伸ばすことには繋がっているのだが、

果たして彼の幸せには結びついたのだろうか。

息子の葛藤を描かず、父親の一方的な愛情から本書が書かれたことで、

面白い視点での小説にはなっているが、どのように『銀河鉄道の夜』が

生み出されたかを描くまでには至っていない。

ただ、全体を通してよく資料など調べられているなということは感じられた。

この下調べだけでも相当な時間がかけられていたに違いない。