『世界のエリートがやっている最高の休息法』久賀谷亮著

たまたま友人とお寺の座禅会の話題になって、そう言えば行ってみたかったなということで、

急遽地元の座禅会を探し出して参加してきた。

その流れで本書を手にしたということ。

マインドフルネスは海外でもメジャーな手法でいろいろなところで取り組まれているのは

知っていた。

座禅会で住職から聞いた話によると呼吸を1から10まで数えてまた1に戻る、を

繰り返す。雑念が湧き上がってもそれをとにかく繰り返す。

座り方は胡座で左足を右足に乗せて座布団は1枚を床に敷き、もう1枚を折りたたんで

お尻の下に敷く。

座禅会ではこれを20分行って、10分休憩し、また20分行って、

20分お経と講話があって終了。

お寺の雰囲気や早朝の時間帯ということもあってか、比較的集中してできた。

参加者の中には警策で打たれている人もいたけれど。

さて、本書の内容。

まず、マインドフルネスとは脳と心を休ませるための技術群。特に燃え尽き症候群

効果があると言われている。

脳はそもそもデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という内側前頭前野

帯状皮質、楔前部、下頭頂小葉などからなる脳回路が意識的な活動をしていない時に働く

脳のベースライン活動。いわば、脳のアイドリング状態。この時に活動が活発化していると

脳は疲労してしまうのだ。マインドフルネスはその雑念を抑えることで休ませるというのだ。

くよくよと思い悩む人ほど、脳のエネルギーを浪費するということでもある。

さらにマインドフルネスは脳の一時的な働き具合だけではなく、脳の構造そのものを変える。

脳には可塑性があるからだ。

これによって、集中力の向上、感情調整力の向上、自己認識への変化、免疫機能の改善が

見込まれるという。

さて、マインドフルネスの仕方だが、座禅と同じく呼吸に意識を向けることで

「今ここ」に意識を向けるようになることを目的としており(脳のすべての疲れや

ストレスは過去や未来から生まれる)、

その際の呼吸にはいい呼吸も悪い呼吸もなく、自然に起きるままにしたらいい。

そして雑念が生まれることも自然なことであり、浮かんできたら、それに気づくだけでいい。

そしてまた呼吸へ注意を戻すのだ。

マインドフルネスはより長くやることで効果が出てくるので継続することが欠かせない。

また呼吸以外にも日常生活の中で何気なくやっている食べる、歩く、歯を磨くなども

自動操縦状態であり、ここから脱して心のふらつきを減らすことで

今を取り戻すことができる。自動操縦に慣れていると集中力が減っているのである。

集中力を取り戻すといわゆる「フロー」状態になる。

瞑想の仕方は10まで呼吸を数える数息法(ラベリング)以外にも「歩行瞑想」も

紹介されている。歩いているときに、自分の手や足の動き、地面と接触する感覚に

注意を向ける。「右、左」と動きをラベリングするのもありである。

「メッタ」という瞑想は通常のマインドフルネス呼吸法を10分続けて、自分が慈しみたい

人を心にイメージし、それによって起こる身体の感覚や感情の変化に注意を向ける、

その人に向けて「あなたが幸せで心安らかでありますように」というようなフレーズを

心の中で唱える、というもの。このメッタは後帯状皮質の活動をかなりリアルタイムに

低下させ、ネガティブな感情を打ち消し、不眠やストレスを改善するのだという。

「ブリージング・スペース」は、ストレスでこわばった身体を緩める。まず、ストレスを

受けた時の自分の変化に気づく。ストレスの原因を心の中で一つの文にしてみると

より反応がわかりやすい。次にいつも通り呼吸に注意を向ける。最後に、意識の向かう先を

呼吸から体全体に広げる。コツはあたかも体全体が呼吸をしているかのように

イメージすること。マインドフルネスは脳を作り変える以上、ストレスの捉え方そのものも

変える。理性によってストレスを抑え込むのではなく、理性と感情がうまく調和する脳状態を

作っていくのである。

マインドフルネスには3段階があると言われている。初期は今ここに注意を向けることに

躍起になる段階。中期は心がさまよったことに気づき、今ここへと注意を向け直せる段階。

最終段階が努力せずとも常に心が今ここにある状態。

マインドフルネス以外に疲労感の改善に欠かせないのは、運動。運動によって脳が変わる

という報告も多い。他には、オン・オフの切り替えの儀式を持つ。自然に触れる。

美に触れる。没頭できるものを持つ。故郷を訪れる。

休息には、レイジー・デイを月に1日設けることが有効だとも紹介されている。ただサボる

のではなく、自分のケアに集中する。

さて、「考え」そのものにも本書は触れている。いろんな考えに頭が満たされた状態を

「モンキーマインド」という。猿が頭の中うるさく騒いでいる状態である。そこで

大切なのは「考え」に対して傍観者であり続けること。人間というのはあたかも「考え」を

自分自身だと思いがちである。しかし、本来、自分というのは容れ物に過ぎない。

自分の心は電車たちが行き交うプラットホーム。どんなに雑多な種類の電車が入ってこようと

プラットホームは変わらない。どんなか永江も一時的に脳を訪ねてくる客人であって、

ずっと頭の中に住み着いているわけではない。考えの癖というか、認知の歪みには

名前をつけることでそれに対する決まった対処法が取れるようになる。そして考えは

捨てる。例外を考える。賢者の目線で考える。良し悪しで判断するのをやめる。

由来を探る(ディープニーズ;深い願望、つまり自分の中の満たされていない願望を

突き止める。プラットホームに電車はどこからやってくるか)。

怒りに対処するマインドフルネスが「RAIN」。怒りが起きていることを認識し、

怒りが起きているという事実を受け入れ、体に何が起きているを検証し、怒りと

自分を同一視せず、距離を取る。これは怒りに限らず、あらゆる衝動にも有効だと

されている。

組織であろうと個人であろうと、それが成長していくためには努力や頑張りだけでは

ダメ。薪木を燃やし続けるためには、薪木の間の「空間」が欠かせない。それが休息

なのである。