『極夜行』角幡唯介著

Yahoo!ニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した時から、

本書を読んでみたいと思っていた。

でつい先日文庫化したので早速購入して読んでみた。

冒頭からすっかりのめり込んでしまった。

それは冒険とは一見関係のない奥さんの出産シーンの描写から始まっていた。

その描写がとても生々しくて熱を帯びており、本書を読もうと思った動機とは

別についつい読み進めてしまった。

さて、極夜行であるが、北極圏において太陽が全く姿を見せなくなる4ヶ月感を

著者は一匹の犬と橇を引っ張って奥地まで進んで行きそして太陽を迎えて、

帰ってくるという行程である。

現代において夜でさえ人工灯で煌々と照らされて眩しいくらい明るい世界がある一方で

北極圏では現代社会システムの外にあり、全くの闇が支配する世界があるのである。

実際著者が極夜を経験するとそれは体力的にも精神的にも辛いということが延々と

書かれていた。その中で月は太陽のような男性的な存在と違って女性的に

闇を照らしてくれる女神のような存在であると言っていたが、

それは一方で眩惑的な光であり、その場にいる者を惑わす光でしかなかったらしい。

それでも極夜は実際美しい景色も見せてくれる世界であり、

地球は宇宙の一部であるということを改めて認識させてくれるほど、

ある意味現実離れした世界を見せてくれたとのことだ。

しかし、ブリザードがあったり、食料のデポが白熊に食い荒らされていたりと

様々なトラブルがあってこの世界は本当に想像を絶するほど過酷な環境であるに

違いない。

この本に出てくる登場人物には犬(人物ではないが)もいる。この犬との関係性についても

筆者は事細かく心情を描いている。いわゆる愛玩動物としての犬ではなく、

厳しい環境下においてもっと密接に結びついた関係性であり、

さらには餓死しそうな状況になれば、この犬を食すことも止むを得ないということ

さえ描かれていた。旧石器時代の人間と犬の関係にも近いものなのかもしれない。

そして、太陽が昇るのである。それは筆者曰く、産道から赤ちゃんが世界に

生まれ出てくるのに近いものがある、それを追体験するために筆者は極夜行を

試みたのだという。ここで冒頭の出産シーンとつながるというわけである。

人生には勝負をかけた旅をしなければならない時がある。

筆者にとってそれは今回の極夜行だったのであり、それは自分自身に対する挑戦であった。

私も極夜行とまではいかないが、自分の人生をかけた挑戦をするタイミングが

そろそろきているような気がする。生死をかけた旅でなくても

自分の人生に意味を見出すための旅をする必要があるのではないか。

そう思う今日この頃である。