『銀河鉄道の父』門井慶喜著

宮沢賢治の父親・政次郎の視点で宮沢家の日々を描いた小説。

2018年に直木賞を受賞している。

政次郎は息子を溺愛している。「父親すぎる」父親であった。

自分が病気になるのも厭わずに息子の看護をしたり、

息子の東京に行きたいと言うわがままも聞き入れ、金の無心もすぐにする。

兎に角、甘い父親なのである。

著者自身がもしかしたらこれに近い感情を父親として抱いているからなのかもしれない。

この父親を通して、宮沢賢治という童話作家・詩人の姿が浮き彫りにされている。

宮沢賢治はわがままで、妹思い、頭は良いが、宗教に入れ込んだり、

人造宝石を作ろうと目論んだりと妙なものに凝る癖がある。

文章を書く才能は妹に劣るが、子供向けのストーリーを考える才能は飛び抜けている。

それで学校の先生になったのだが、病気がちだったのもあり、

退職し、自給自足の生活をしながら童話や詩を書くのだが、

結核になり、若くして亡くなってしまう。

父親は、当時の世相的には家長制度により、父親の威厳を保ちたいところではあるのだが、

どうしてもこの息子をサポートしてあげたい気持ちが強く、つい甘やかしてしまう。

その愛情は最終的には息子の才能を大いに伸ばすことには繋がっているのだが、

果たして彼の幸せには結びついたのだろうか。

息子の葛藤を描かず、父親の一方的な愛情から本書が書かれたことで、

面白い視点での小説にはなっているが、どのように『銀河鉄道の夜』が

生み出されたかを描くまでには至っていない。

ただ、全体を通してよく資料など調べられているなということは感じられた。

この下調べだけでも相当な時間がかけられていたに違いない。

『漂流』角幡唯介著

1994年、沖縄のマグロ漁師・本村実はフィリピン人船員らとともに37日間会場を

漂流したのち、奇跡的に通りがかった船に助けられて生還を果たした。

しかし、彼は8年後、再び漁に出て、今度は二度と戻らなかった。

沖縄の伊良部島にある佐良浜の漁師であった彼は海とは切っても切れない強い結びつきに

あったのかもしれない。だから一度大変な目にあっても再び海に出ることを決意したのだ。

ただ、その結びつきも海に魅せられたからと言うよりかは、佐良浜の漁師が歴史的に

海と離れられない運命にあるかのような生活を送ってきたことによるところが

あるかもしれない。

補陀落僧と言われる、民衆を浄土に導くために渡海した僧侶が起源と言われる佐良浜の民。

当時禁止されていたダイナマイト漁。

南方カツオ漁による荒稼ぎとフィリピンなどでの現地妻。

陸の人間には分からない海の民としての彼らの血が本村にも流れていたのだ。

本村は最初の漂流では船長であったのだが、食料や水がなくなった時に

同乗していたフィリピン人船員らから途中殺されて食われるかもしれないと言う

ところまで行っていたそう。ただ、フィリピン人たちもそんな力が残っていなかったので

結局はそうもならなかったようであるが。

本村が生還したのは決して英雄的なことではなく、

海上での失敗があったから漂流していたのであって、助けられたのも幸運なだけだった、

と言うのが海の民の視点であるので、生き恥を晒していることになるのだった。

板一枚下は地獄と言われる海に生きる民と、そこを漂流と言う命のギリギリのところを

行った人間と海との宿業とも言うべきつながり。

自分には中々分かり得ない世界かもしれない。

『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』前野隆司著

幸せについて、今まで真剣に考えることは無かったような気がする。

現在、果たして自分は幸せだろうか。

率直に言うと微妙なところである。

現状、仕事以外では不満なことはそこまではない。

ただし、仕事について言えば、正直不満ではある。

では、自分はどうすれば幸せになるのだろうか。

もっとやりがいのある仕事をするのか。給料の高い仕事を探すか。

この本には幸せについての研究が簡単にまとめられている。

まず、幸福は抽象的で壮大である。だから、幸福を因数分解して、

具体的な目標に落とし込むことが必要になる。

そして、自分は何が面白くて、何を求めているかを明確にわかっている人こそ、

幸せな傾向にある。

アインシュタインも言っている。「誰もが天才だ。しかし、魚の能力を木登りで測ったら、

魚は一生、ダメだと信じて生きることになるだろう」。魚は魚らしく自分で

才能を見つけなければならないのである。

しかし、人間は「フォーカシング・イリュージョン」といって幻想、つまり間違ったことに

焦点を当ててしまうことがある。実際は幸福には繋がらないことに焦点を当てて

それを目指してしまうと言うことだ。

アメリカの研究では年収1,000万円までは金額と幸福は相関関係にあるが、

それ以上は幸福度は上がらないと言う。

それでも人はひたすら金額を追い求めてしまうと言うことだ。

マズローの欲求の5段階説(生理的欲求、安全欲求、愛情・所属欲求、尊厳欲求、

自己実現欲求)によれば、収入がある程度になれば、次は愛情・所属欲求を求めるようになる

と言うことだ。

次に、幸せの心的因子を4つ挙げている。1つ目が「やってみよう因子(自己実現と成長)」。

2つ目が「ありがとう因子(つながりと感謝)」。3つ目が「何とかなる因子

(前向きと楽観)」。4つ目が「あなたらしく因子(独立とマイペース)」。

これらは4つ揃うと幸せになる。

幸せになりたいと思ったら、まずは自己実現と成長を目指すべきなのだ。

次に多様な友達を持つことが幸せにつながっている。

また、美しいものを鑑賞する人より、それを想像する人の方が幸せになるのだと言う。

自分の幸せ探しのためにやるべきことがあるのだ。

『ライフ』

2017年公開のアメリカのSFホラー映画。

真田広之も出演している。

ISS国際宇宙ステーション)を舞台に火星から採取した

地球外生命体(初めは小さな細胞)が、実は知能を持っており、

ISS内の宇宙飛行士を次々と襲う話。

最後は残った二人の宇宙飛行士のうち、一人が自ら犠牲となって、

その生命体を脱出用のポッドに閉じ込めて、共に宇宙の彼方へ飛び立ち、

もう一人の宇宙飛行士はもう一つの脱出ポッドで地球に帰るという作戦を

実行することになるのだが、地球外生命体がそれを阻止して、

地球に帰還するのは地球外生命体の方だったというオチ。

『イルカと、海へ還る日』ジャック・マイヨール著

人類で初めて水深100mまでの閉息潜水を記録した伝説のフリーダイバーの著書。

フリーダイバーになったのはマイアミ水族館でイルカのクラウンと一緒に仕事し、

彼女から色々と学んだことによるのだった。

そもそも日本の唐津の七ツ釜で子供時代にイルカと偶然会ったことが始まりだった

マイヨールのイルカとの出会い。

クラウンとは不思議とコミュニケーションをとることができて、

彼女との結びつきが神秘的であると同時に、彼にとっては運命的なものであった。

その後、フリーダイビングを始めて、次々と世界記録を出していくことになる。

フリーダイビングに必要なヨガの呼吸法についても言及している。

彼は2001年に自殺で亡くなったのだが、解説によると

彼はプライドが高かったらしい。プライドは害しか生み出さないので、

それではなく自尊心、つまり自分の人格を尊重したい、品位を保ちたいという心を

持つことが、決断や判断を迫られた時の大切な基準になるのであり、

これを持つ必要があるのだ。

個人的にはフィンスイミングをしていたこともあるので

ジャック・マイヨールの生き方や考え方にはなんとなく共感できる部分もあり、

興味深く読ませてもらった。

『TENET』

2020年公開のアメリカのアクション映画。

昨年話題になった映画だったので、レンタルになったら即、借りて見た。

正直言って難しい。

CIAの主人公がスパイとなって世界の危機を救うという話だったが、

時間に逆行するシステムがどのようにして起こるのか、

なぜ起こるのかがさっぱり分からなかった。

主人公役はデンゼル・ワシントンの息子。

『サピエンス全史 上・下』ユヴァル・ノア・ハラリ著

ホモ・サピエンスがどのように世界に広まり、繁栄していったのかを

イスラエル人の歴史学者が記した本。

五万年前、サピエンスはネアンデルタール人とデニソワ人とグレーゾーンにあり、

稀に交配していることもあったそう。しかし、両者はサピエンスによって絶滅に

追いやられていたようである。サピエンスがこの中で繁栄したのには、

言語の発達とそれによる「噂話」の共有により、協力関係を築くことができたから。

ところが、噂話による自然な集団の形成は150人まで。

どのようにそれ以上の巨大な帝国を築いたのかというと、それは「虚構」による。

神話を含めて実際に目に見えないものを信じる力が帝国につながったのだ。

サピエンスが発明した想像上の多様性とそこから生じた行動パターンの多様性は

「文化」となった。そしてその文化が変化していくことを「歴史」と呼ぶ。

進化心理学では現在の社会的特徴や心理的特徴の多くは、農耕以前の長い時代に形成された

と言われている。つまり、現代人も狩猟採集生活に適応しているのだ。

平均的なサピエンスの脳の大きさは、狩猟採集時代以降、実は縮小した。狩猟採集民より

劣った「愚か者のニッチ」が農業や工業に必要な技能に頼れるようになり、遺伝子を

次の世代に伝えることができた。

やがて農業が盛んになるのだが、実は私たちが小麦を栽培化したのではなく、小麦が

栽培しやすいところにサピエンスが住み着いたということで私たちを家畜化したとも言える。

虚構の話に戻るが、人間の平等も自由も正義も「想像上」の普遍的原理であるのだ。

そして同様に宗教も虚構の中に生まれるのだった。

当初あった多神教は、キリスト教のような一神教だけでなく、善悪の対立を認める

ゾロアスター教のような二元論の宗教を生んだ。

二元論では悪の説明が簡単につく。世界には善と悪があるから。

しかしそうなると世界の秩序はどのようにして保たれているのかという問題が出てくる。

つまり、善と悪の戦いを支配する諸法則は誰が執行しているのかという問題である。

交易と帝国と普遍的な宗教のおかげでサピエンスの繁栄はグローバルな世界に到達した。

科学の登場、さらにはそれがテクノロジーと結びつくことによってサピエンスの繁栄は

加速化する。近代科学と近代資本主義の結びつきはさらに加速化させる。

これは帝国主義の制服ともつながってくる。有名な話で、ニール・アームストロングらが

月面での作業の訓練のためにアメリカの砂漠で訓練していると現地の

ネイティブ・アメリカンの老人に何をしているのかと声をかけられ、月に向かうことを

伝えると、老人は月に住む精霊に伝えてくれと、現地の言葉を宇宙飛行士たちに

覚えさせた。宇宙飛行士たちは後で、通訳にその言葉を伝えると

「この者たちのいうことを信じてはいけません。あなた方の土地を盗むために

やってきたのだから」だったそう。

いずれにしろ科学は帝国主義と結ぶついて発展する。イスラム教がインドを征服した時は

現地の歴史や文化などを調べることはしなかったが、イギリスがインドを征服した時は、

歴史や土壌、土地計測などを行なった。学問は帝国主義の確立には必須であったのだ。

一方で、貨幣、そしてそれに伴う「信用(クレジット)」による経済活動の発展は

人類の発展に大きく寄与する。昔の人も信用は考えていたが、当時は世界のパイは

変わらないので、誰かが儲かると他の誰かが貧しくなると考えられていた。

そこに科学革命が起こり、進歩という考え方が登場した。それによって富の総量は

増やすことができると考えるようになったのだ。それにより、信用を担保にした

金融資産の増資と経済活動の発展が加速化した。

さらにアダム・スミスは『国富論』(1776年)で富と道徳は矛盾しないということを説いた。

こうして利益と生産のサイクルが国家をより富ませる結果となるのだった。

最後に幸福について。幸福とは主観的感情に基づくという自由主義の考えがある。

一方、仏教によると幸福は自分の感情とは無関係であり、

むしろそれの追求を止めることである。すなわち、真の自分は何者であるか、

を理解することである。

幸福を研究する学問はまだ数少なく、まだ結論を出すには早いということ。